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2012年1月 3日 (火)

野津隆志『アメリカの教育支援ネットワーク』東信堂

Books著者の野津(人類学者)は、多様な文化的背景を持つ児童生徒が多数在籍するオリンピア市(米国ワシントン州)の学校と青少年育成支援を行うNPO活動の参与観察を通じて、学校と地域の様々なアクター(NPOやボランティアなど)が連携して展開する学習支援ネットワークの機能を、エスノグラフィーの技法と認知心理学の理論枠組みを使って分析する。


オリンピア市は、1980年代以降、中南米やアジアからの
移民・難民が急増した地域で、現在、白人以外の移民・難民が人口の約2割を占める。

参与観察を通じて、野津は、Together(青少年支援NPO)による放課後クラブ活動(ネイバフッド・センター)の機能を次のように分析する。
(1)学習の場
(2)くつろぎの場
(3)社会参加の日常訓練
・異年齢交流の場
・社会的規範の形成の場
・ベトナム・コミュニティ生活者としての責任形成
NPOが開設する放課後クラブ活動の場は、学習支援にとどまらず、子どもたちの「居場所」など、実に多様な機能を担っている。

さらに、野津は、心理学者・ロゴフが提唱する「Guided participation」という概念に着目し、「ロゴフは、子どもは多層的に組織された小集団による相互関係のウェブ(網)に参加することを通して成長するという。そうした相互関係の網とは、ダイアード(対となった関係)を越えた人間関係の立体的配置(configuration)であるともいう。まさに、ネットワーク型学習とは、教師とニューカマーというダイアードを超えたウェブのような支援者の立体的配置のことである。さらに、その配置はアメリカンフットボールのフォーメーションのように、活動場面ごとに構築され、壊され、再構築されている。そして、多極的なコミュニケーションのウェブを通して、情報が臨機応変に交流することで、「統一的活動」「画一的活動」では果たしえないニューカマーの効果的な学習が可能となっているp.171」という。

ロゴフは、途上国において、親以外の多数の兄弟姉妹、祖父母、近隣者との多様なウェブから子どもの豊かな発達が促される様子を観察する中で、「Guided participation」という概念を着想したらしい。米国のみならず日本においても、教師・保護者以外の大人やロールモデルとなる異年齢の先輩と人格的な触れ合うを持つ機会は限られている。NPOのケースマネージャーや大学生インターン、高校生ボランティアなど、保護者でも同級生でもない人物との接触機会を重層的に持つことは、子どもの社会性の発達にプラスの効果をもたらす。

さて、本書で野津は、「ダイアード型支援からネットワーク型支援へ」という表現を頻繁に使う。ニューカマーの子ども支援には、学校の教員と生徒という一対一の関係(ダイアード)だけではなく、NPOやボランティア、企業等の複数のアクターが重層的に関わること(ネットワーク)が重要であると指摘する。

教育社会学者の林嵜和彦も、ニューカマーの子どもを支える仕組みについて、「多様な主体(マルチエージェンシー)による協働的な支援」の必要性を指摘する(「浜松市における外国人の教育問題と協働」『多文化共生と生涯学習』明石書店所収)。林嵜のいう多様な主体とは、「公立の小中学校、放課後の日本語教室、教育支援をするNPO、児童福祉施設、家庭やコミュニティの人々、外国人学校などp.180」

しかし、子どもを取り巻く支援者(機関)の数を物理的に増やすこと自体は目的ではない。一つの主体だけでは、十分な学習環境を提供できないから、複数のアクターがネットワークを形成する必要があるのだ。ネットワークの意義を、支援主体の側ではなく、子ども(支援の受け手)の側から捉え直すことで、それまで視野に入らなかった支援ニーズが浮上する可能性がある。子どもの困難が、言語の問題なら日本語教室や日本語ボランティアが、異文化ストレスなら母語のわかる心理カウンセラーが、家庭の貧困に起因するなら児童福祉機関が、というように…。

子ども(クライエント)を中心に置き、ニーズを可視化し、課題解決に必要な社会資源を発見(開発)するソーシャルワーカーの眼差しをもった人材・コーディネイト機関の重要性が、従来以上に高まっている。マルチエージェンシーによる協働を成立させる場の要件、場をデザインする人材の資質・技(わざ)について、今後も考えていきたい。 

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