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2012年11月25日 (日)

『弱者の居場所がない社会~貧困・格差と社会的包摂 』を読んで

著者の阿部彩さんは、国立社会保障・人口問題研究所の研究者。貧困問題が専門で、前著の『子どもの貧困』(岩波新書)は、各界から注目された。

タイトルの「社会的包摂」という概念は、近年、バズワードになりつつある。先日東京都美術館で開催された「美術、コミュニケーション・デザイン」フォーラムに登壇した劇作家で阪大教授の平田オリザさんも、社会的孤立が強まる現代日本において、美術館、図書館、劇場等を拠点とした「文化による社会的包摂」の必要性を訴えていた。

さて、『弱者の居場所がない社会 貧困・格差と社会的包摂 』は、貧困・格差の原因を、3つの排除(関係からの排除、仕事からの排除、場所からの排除)と関連づけて追究しつつ、単純な貧困対策とは別概念としての“社会的包摂”の必要性を訴える。http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2881357

本書の構成は以下のとおり。

●目次
プロローグ 社会的包摂と震災
第1章 生活崩壊の実態
第2章 「最低生活」を考える
第3章 「つながり」「役割」「居場所」
第4章 本当はこわい格差の話
第5章 包摂政策を考える
第6章 インクルーシブな復興に向けて

以下、印象に残ったところ。

「まっとうな生活を保つための貧困対策と、社会的包摂対策は、両者とも必要である。ヨーロッパにおける就労支援は、『食うための手段としての就労』、すなわち公的な給付を代替するための就労ではなく、あくまでの包摂の手段としての就労の支援なのである。」P.111

日本では、貧困対策と社会的包摂手段としての就労支援は、一緒くたに語られている。阿部氏曰く、「ヨーロッパ諸国における雇用対策への重点のシフトは、潤沢な福祉制度を前提として起こったものである。日本とはそこが大きく違う。」P.111

英国ノッティンガム大学教授のリチャード・ウィルキンソン名誉教授の著作『格差社会の衝撃~不健康な格差社会を健康にする法』(書籍工房早山、2009年)、『平等社会~経済成長に代わる、次の目標』(東洋経済新報社、2010年)をもとに、ウィルキンソン氏の主張を次のように要約する。

「格差が大きい国や地域に住むと、格差の下方に転落することになる心理的打撃が大きく、格差の上の方に存在する人々は自分の社会的地位を守ろうと躍起になり、格差の下の方に存在する人は強い劣等感や自己肯定感の低下を感じることになる。人々は攻撃的になり、信頼感が損なわれ、差別が助長され、コミュニティや社会のつながりは弱くなる。強いストレスにさらされ続けた人々は、その結果として健康を害したり、死亡率さえも高くなったりする。これらの影響は、社会の底辺の人々のみならず、社会のどの階層の人々にも及ぶ」p.127

「一部の人が排除される社会は、すべての人が生きにくい社会なのである」p.129

さて、阿部氏は、内閣府が始めた「パーソナル・サポート・サービス」事業にふれつつ、就労支援の先にある社会のあり方に言及する。

「これらの政策が抱える問題の一つは、『出口』としての社会が変わらないところである。いくら就労支援をしても、こまめにサポートをしても、得られた就職が非正規で賃金も低く、自己の存在価値が認められたと感じさせるような仕事でなければ、結局のところ、何が改善されるのであろう。『出口』の先が、人々を戦々恐々とさせる格差社会であるなら、その人の真の社会的包摂は可能であろうか。」

最後のパラグラフの部分は、ニートやひきこもりの支援活動を長年展開している実践者が述べる主張と共通している。就労支援は重要だが、出口の先にある「社会」そのものを変えていかねばならいのだ。とはいえ、日本の企業文化、社会を変えることはそう容易くはない。まずは、自分のできるところからコツコツと、やっていこう。

2012年11月22日 (木)

北欧の図書館から学ぼう(図書館総合展)参加メモ

図書館総合展のフォーラム「北欧の図書館から学ぼう-なぜ北欧の公共図書館には行列ができるのか」に参加した。

○日時:2012年11月20日(火)
○会場:パシフィコ横浜・第6会場(アネックスホール206)
○講師:吉田右子(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科教授)

○内容(当日のメモをもとに)

司会:平塚市中央図書館の小泉さん
主催者挨拶:和田さん(図書館協会研修委員長)

【講演内容】

●北欧の国々の特徴、図書館事情について

北欧は個性的な国が揃っている。デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドを研究対象としている。

夏と冬で暮らし方違う。夏は、ほとんど外で過ごす。5週間有給休暇をとり、サマーハウスで過ごす。寒いのはそれほどではない。コペンハーゲンの冬の気温は0度。寒さはそれほどではないが、暗いのがきつい。冬は、10時になると明るくなり、3時には真っ暗となる。

暗い毎日には、(元気をつけるための)行事が必要。北欧は、年が明けるまでクリスマスで盛り上がる。

北欧の人々にとっては、何よりも自然が大事。ブルーベリーをつんでジャムにする。きのこを採ってシチューにする。自然を楽しむことが、人生にとって一番大事である。

北欧の国々は、福祉に力を入れている。ノーマライゼーション、バリアフリーが徹底している。施設ごとに計画を立てるのではなく、社会全体でバリアフリー化を進めている。

北欧3カ国は、言語が似ているので、自分の言葉をしゃべっていれば通じるという感じ。日本でいうと、津軽弁と鹿児島弁で会話しているイメージ。互いの言語は違うが、なんとなくわかる。なお、フィンランドだけは言語体系が違うので、フィンランド人が入ると共通言語は英語になる。

吉田は)デンマーク語を習得するために教室に通ったが、ものにならず、英語で日常生活をすることになった。彼らの英語は、フラットな英語で、日本人には聴きやすい。

デンマークの人口は神奈川県民とほぼ同じ規模なので、デンマーク人は、外国人がデンマーク語をしゃべってくれるという期待がない。

彼女たちは、幼い頃、テレビ・アニメを見て育つ。デンマークでは、テレビ番組を制作しないので、外国から番組を買って放映する。その際、現地語(デンマーク語)の字幕つける。

こういう状況なので、誰でも普通に英語を話す。英語も、とてもシンプルなもの。例えば、主語が三人称単数でも「s」をつけない。

●スウェーデンの図書館事情について

さて、自分の目で北欧の図書館を確かめてみたいと思い、約80館回ってきた。スウェーデンの図書館が中心。

北欧の図書館は、原則、おしゃべりが自由にできる。携帯電話でのおしゃべりもOKだ。人々の音量は、カフェくらい。決して静かではない。逆に、静かにしたい人は、別の場所に隔離される。ここの中は、修道院なみ。

館内での飲食は、原則OK。セフル・サービスのコーヒーまで置いてある。こぼした場合は、利用者が弁償するシステム。

北欧の人々の人生の楽しみは、1に、自然を歩くこと。2に、図書館のカフェでおしゃべりすること。

スウェーデンの図書館のコーヒー料金は、まちなかのカフェに比べ半額くらい。トイレもある。

一般に、図書館の開館時間は短め。平日、10時から17時が標準。開館時間は、年々短くなりつつある。

北欧の人々は、夜は家族と過ごすことを大切にしている。しかし、離婚率は高い。現時点での家族との団欒を大切にしている。

北欧の国々は、「これいい」と思ったら瞬間にやって、ダメだと思ったらすぐに撤退する。日本ではこれができない。

図書館サービスの受益者負担の考え方は、基本サービスは無料。わがまま(付帯サービス)すると、料金がかかる。例えば、本の返却が遅れると、延滞料をとられる。延滞料を、日本では、「罰金」という。北欧の図書館では、「延滞=悪いこと」ではなく、「1週間多く借りたわ」という感じ。本を返す方も受け取る方も、ニコニコしている。

スウェーデンの図書館司書は、本の返却、配架、貸出には一切関わらない。では何をしているのか。彼・彼女らの仕事は、主にレファレンス。

利用者は、番号札をとって、自分の順番を待つ。呼ばれたら、司書に質問をする。質問の内容は、トイレどこですという簡単なものから深刻な内容まで、様々。

司書は1時間に20人の利用者に対応するので、疲れる。こうした事情から、スタッフ・ルームは、窓のある場所など、恵まれた環境にある。自分(司書)のコンディションが充実していないと、よいサービスはできないという考え方が貫かれている。

図書館では、沢山のプログラムを用意しており、60ページのカラー版のパンフレットを発行している。プログラムとは別に、講座がある。例えば、パソコン講座、スマホ活用講座など。

さらに、図書館内に、「デモクラシーコーナー」がある。時間を決めて、図書館に議員がやってくる。議員に話したいことがある住民が自分の主張を述べ、議員は聞き役。なお、このコーナーをNPOが使うこともある。

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北欧では、「図書館が文化の拠点」になっているのだ。図書館で、地元アーティストの作品に出会える。例えば、アーティストが「反戦のインスタレーション」をやることもある。

図書館内の空間デザインは、大変凝っている。とても居心地がいい。黄色い書架や赤い床をよく見かける。

○スウェーデンのストックホルム市立図書館
図書館のオーラを感じる。裏がバックヤードになっている。

駅直結の図書館が流行している。図書館が閉館していても、ネット端末使える。

椅子がいい。書架にキャスターがついている(地震があまりないため)。書架が動くので、空いたスペースで、ヒップ・ホップなどのダンス教室が可能。

スウェーデンでは、麻薬常習者対策の一環として、図書館内のトイレは有料(一回約60円)。

○小さい図書館
スウェーデンとノルウェーでは、分館が減って、学校図書館と併設になりつつある。地域住民も、学校図書館をつかっている。そこには、公共図書館と学校図書館の仕事の両方が出来る人が勤めている。

高校生になると忙しいので、通学バスを使って図書を届ける読書振興策をとっているところもある。

また、ネットを活用してオンラン読書会をする図書館もある。これには、文化省がお金を出している。

○ボランティアが運営する図書館
福祉・教育職は専門職としての公務員。普通の図書館では、ボランティアはいない。例外はある。

この図書館は、閉鎖が決まった時に、住民が「反対」を表明し、自分たちで運営しはじめた。住民の一人が、偶然司書だったのが幸いした。週に1度だけ、土曜日に館を開けている。もう10年間運営している。地元自治体からの補助金はあるが、それでは足りないので、クッキーをつくって利用者に売り、その収益を運転資金に充てている。

スウェーデンの図書館で、何故こんなにプログラムが多いかというと、公民館がないからだと思う。図書館が、公民館がやるようなプログラムを開催している。

・作家と図書館の距離が近い。講師料は、高くても3万円くらい。読者と直に話ができることは、作家にとってもメリットになる。

・コンピュータは、図書館で習う。シニアITネットワークという団体が運営する。シニアがシニアに教える形態。

・「おしゃべりカフェ」というプログラムがある。移民が多いので、言語を勉強する機会を提供している。カフェは、飲食OK

北欧では、図書館のある生活があまりにも市民に浸透しているので、市民にアンケートをとると、「図書館は今のままでいい」という人が多い。

●年代別の図書館という発想
読書離れを食い止めるため、年齢別の図書館ができている。

・幼児期用
・学齢期用(10歳から13歳)
ンピュータ遊び、クッキーやく、コスプレやる。
・ティーン・エイジャー用
移民・難民の青少年の利用が多い。男の子図書館クラブ(学童保育に行くお金を払えないので、図書館に来る)

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★移民の男子たちが利用者を威圧するような振る舞いをするのを見たベテラン司書が、こうした子どもたちに、図書館内での役割を与えている。例えば、配架の手伝い。自分たちのオススメ本のエッセイを書く、など。役割が与えられた子どもたちは、図書館のサポーターになっている。また、子どもたちが司書を街に連れ出し、色々な町の様子を教えてくれるようになった。

→これって、米国ブルックリン子ども博物館のキッズ・クルーと同じ発想だよねー。

男の子図書館クラブは、人気が出た結果、今は入会待ち状態であるという。

スウェーデンでは、作家への補償金制度がある。1回貸出につき、12円が作家に支払われる。

○体系的な図書館の利用者教育
・まずは、保護者がベビーカーに子どもを乗せて図書館に行く
・保育園は、定期的に図書館に行くので、子どもたちは自然に図書館の存在を知る
・学校図書館はそれほど楽しい場ではないが、学校司書が公共図書館利用を勧める

公共機関の哲学(ユニバーサルデザイン)

・情報アクセスが困難な人へのサービスの充実
・「りんごの棚」「リンゴセット」
・ブックモービル、宅配制度
 「本が来る」という表現、利用者中心
・移民児童への宿題支援を国家的プロジェクトとして実施
・ノーベル賞作家が、定期的に図書館にやってくる仕組みがある。

●まとめ、北欧の図書館とは

・文化と情報へのアクセスを保障する機関
・ポストカード。あえて挑発的な言葉・色を使う。注意を惹きつける。
「図書館は、あなたの必要なことすべてに対応する」と、大風呂敷を広げる。
・社会理念と図書館の運営哲学が結びついている
 
→平等、共有、セルフ・ヘルプ
・人が困っていると、すぐに助ける。とにかく、助けるスピードが速い。助け合うという姿勢が身についている。頭で理解しているのではなく、体で理解している。

■感想
北欧諸国では、平等、共有、セルフ・ヘルプという理念が、社会の隅々まで浸透しているという話を聞き、日本とは随分違うなーと感じた。もうひとつ感心したのは、トライ・アンド・エラーの精神。とにかくいいと思ったらまずやってみる。失敗したら、またやり直せばいいじゃんという姿勢、いいですね。

2012年11月12日 (月)

「ニートがひらく幸福社会ニッポン」二神能基著を読んで

本屋に行ったら偶然この本を見つけたので、読んでみた。

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僕が過去に読んだニート本(教育学者や労働政策の研究者が書いたもの)は、その多くが「ニート=若者の就労問題」という認識に立ち、その原因と解決策を探る立場から書かれていた。そこで語られるニートの原因は、若者のコミュニケーション能力の低下や、雇用機会の減少と時代遅れの職業訓練という労働政策上の課題に集約されがちであった。もしこれがニートの根本原因なら、コミュニケーション能力を高める教育機会と、若者の職業訓練の機会を増やしさえすれば、劇的にニート現象が解消されるはずである。
 

しかし、上記の処方箋は、間違いではないにしても、どこか本質をとらえていないように感じる。コミュニケーション能力は、年回数回程度のワークショップに参加することで劇的に高まるわけではないし、また、職業訓練の機会を増やすだけで、長期間ひきこもり状態にあった若者が、すぐに安定的に働くようになるとは思えない。問題はそんなに単純ではないのだ。

 

古いタイプの公共職業訓練のあり方を見直し、「いま、ここ」のニーズに合わせて、新しいタイプのコースを開発していくことは必要であるが、若者一人ひとりの状況にきめ細かく対応するための制度(カウンセリングやソーシャルワーク的なアプローチ)を伴いない限り、訓練の内容を手直しするだけでは、決して有効な解決策とはならないだろう。

 

なお、ニートの原因の多くを発達障害に求める説も流布している。典型的なのが、厚労省が出したガイドライン。確かに、ニート状態にある若者の一定割合に、発達障害があることは事実なのであろう(僕の身近にも実例がある)。しかし、多くのニートが発達障害であるという認識は、現象を正しくとらえているようには思えない。どこからがどこまでが発達障害で、ここからは健常という線引はそれほど簡単ではなく、かりに発達障害という見立てが正しくても、発達障害が、ストレートにニートに結びつくわけでもない。

 

発達障害をもった若者への支援は、ぜひ拡充して欲しいと思うが、ニートの原因は、決して発達障害に限らない。では、発達障害以外のニートは、どうして社会に出られないのだろうか。

 

二神の最新作である『ニートがひらく幸福社会ニッポン』は、親世代が持つ20世紀的型人生観(成長神話と上昇志向)と、若者の持つ21世紀型人生観(縮小社会という前提、脱力志向)との相克が、ニート現象を生み出す原因であると喝破する。

 

モノがあふれる一方で低成長が続く社会状況の中で、若者の価値観は、確実に変わってきている。「大人(親世代)の価値観こそ変える必要がある」と述べる二神の見解は、拝聴に値する。でも、親世代の価値観を変えること、これが結構難しいんだよねー(>自分)。

 

「コミュニケーション能力が高くなければダメ人間」という風潮の中で、本の中で紹介される「ありのままでいいんだよ」というメッセージには、救われる思いがする。「若者に“ハイパー・メリトクラシー”という新たな能力が求められている」という本田由紀の分析には共感するが、しかし、ハイパー・メリトクラシー社会へのシフトに対する対抗策が「専門性を磨くこと(職業教育の拡充)」というのは、ちょっと違うのではないかと言いたい(当面の処方箋という意味で提案しているのだろうが…)。「あるがままの存在を、まるごと受けとめること」ができる懐の深い社会を構想したいですねぇー。

 

2012年11月10日 (土)

アートで創る多様性のある社会(主催:国際交流基金)参加報告

国際交流基金が主催した「アートで創る多様性のある社会」に参加した。しんじゅくアートプロジェクトのEさんから、この催しへのお誘いを受けたことがきっかけだ。フィリピン(マニラ、ダバオ)と日本(新宿)をつなぎ、4名のアーティストの協力で実現した2つのワークショップ。その様子を動画と関係者の語りで紹介する報告会イベントだった。

http://www.jpf.go.jp/j/intel/new/1210/10-01.html
 

○日時 20121103日(日)午後1時~3時

○会場 国際交流基金さくらホール

○内容

【第1部】

Rap in Tondo2×しんじゅくアートプロジェクト」のコラボが成立した経緯

★三富章恵さん(国際交流基金マニラ日本文化センター、司会)から、「Rap in Tondo2」の概要説明

 

2011年5月にマニラとダバオで開催。日、独、仏、フィリピンのヒップホップ・アーティスト(ダンス、DJなど) による、貧困地区または紛争地域に暮らす若者を対象とした ワークショップと公演を開催するプロジェクト。
http://d.hatena.ne.jp/japanfoundation/20121030/p1

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(フィリピン・ダバオでのワークショップ動画)

上記プロジェクトの様子を動画で放映(7分程度)した後、さらに解説が続く。親に虐待を受けたり、不良グループに出入りしている子どもたちを集めて、「子どもの権利」をテーマに作詞・作曲をするワークショップを実施した。心に抱える悩みを暴力でしか表わせない子どもたちに、音楽を通じて自らの感情を表現することを学んでもらうことが目的。

 

その後、三富さんは、フィリピン以外で上記の活動を展開できないかと考えていた矢先、海老原周子さん(しんじゅくアートプロジェクト副代表)のfacebookを見ていたら、外国につながる子どもを対象にダンス等のワークショップをやっていることを知る。協力してワークショップができないかと思い、彼女にメッセージを送ったところ、「やりましょう」との返事がきて、このコラボ企画が実現することになった。これは、セレンディピティ?

 

★ゲスト・スピーカー(アーティスト)から

 

O.G.Sacredさん

私はマニラのTondo出身です。トンドは貧困地区です。トンド出身というと、偏見の目で見られることが多いです。怖がられることもあります。しかし、今、トンドの子どもは、希望をもっています。自分がフィリピンで有名になった時、トンド出身者であることを多くの人に知ってほしいと思いました。トンドの子どもだって、世界に立ち向かう能力があることを見せたかったのです。トンドには複数のギャング集団があり、そこと関係のある子どもたちに、ラップを教えています。ラップを教えることで、ギャング集団間の抗争から彼らを救うことができるのです。

GOWさん

フィリピンとスコットランドの混血。20年以上日本に住んでいる。自己紹介をすると、スコットランド出身という部分にだけ着目して、「すごい、イギリス出身なんだ」という反応が返ってくることが多い。日本人の中に、世界に対するステレオタイプがあると思う。最近のソーシャルメディアの威力は凄い。ある時、知り合いの小学生が、Facebookでフレンド申請してきた。今は、物理的な距離があっても、簡単につながれる。

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(左がO.G.Sacredさん、右がGOWさん)

・おみゆきCHANNELBig Benさん、Young-Gさん

ヒップ・ホップのBGMをつくっている。山梨県の一宮町出身。地元に町村合併の話がもちあがり、自分の気持を伝えたいと思って、ヒップ・ホップを始めた。「スティル・一宮」という7人編成の音楽ユニットが母体で、おみゆきCHANNELは、その中の音楽プロデュース部門。2010年に、アルバムを出した。「おみゆき」の語源は、地元の神様。ヒップ・ホップは、都会的なイメージが強いが、実際には多様なルーツがある。地元の商工会主催の祭りで「ライブをやってくれ」と頼まれることが多い。一宮町は桃が有名なので、桃畑のラップ曲をつくった。
http://event.maryjoy.net/article/44633085.html

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(左がBig Benさん、右がYoung-Gさん

・海老原さん

自分の出身国や地元の文化に誇りをもっていることが、今日のアーティストに共通している。同じルーツのお姉さんが活躍する姿を見せることで、外国ルーツの子どもたちがエンパワーされる。
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(作詞ワークショップの方法を解説する海老原さん)
 

【第2部
 

★おみゆきCHANNELGOWO.G.Sacredの順で、パフォーマンスの披露。

★しんじゅくアートプロジェクトの様子を動画で上映

 

★海老原さんから動画の解説

雑誌等から好きな「こどば」を選び、それをもとの作詞していく。参加者の中で、フィリピンにつながる子が、自分から通訳をかって出てくれた。また、一人の子が、自分からO.G.Sacredさんにタガログ語で話しかけた。その時、すごくホッとした表情をしていた。実は、海老原さんは、その子がフィリピン・ルーツとは知らなかったそうだ。

 

子どもたちは、ワークショップが終わった後も、活動を続けたいと言った。普段は、自分から積極的に声を出すのが難しい子どもたちだが…。その後、フィリピンにつながる子が、曲の続きをつくっていった。後で振り返ってみると、その活動が、日本語学習にもなっていることがわかった。

 

★ゲスト・スピーカー(アーティスト)の感想

 

・O.G.Sacredさん

とても楽しかったです。今まで心の一部がかけていたのが、このプロジェクトで完成したように思う。私が子どもたちに教えると思っていたが、実際には子どもたちから教わることが多かった。

・GOWさん

しばらく曲をつくれず、スランプ状態にあった。子どもたちと一緒にプロジェクトをやることで、色々な気づきがあった。一人で考えすぎている時は、誰かと何か一緒にやることで状況が打開できると思った。

・おみゆきCHANNELYoung-Gさん

作品として残すのはいいなー。音楽にかぎらず、モノを残すのは大事。外国につながる子どもたちが受けているストレスは多いのではないか。僕がそれを本当に理解するのは難しい。しかし、音楽を通じて、子どもたちに「楽しさ」を感じてもらうことはできる。中には、途中で帰ってしまった子や、イヤイヤ参加している子もいたが、一緒に章節を書き、レコーディングして作品を聴いた時には、満足そうな顔を変わっていた。

 

★海老原さんから、参加アーティストに、「どんなきっかけでアーティストになったのか? どんなロール・モデルがあったのか?」という質問があった。

 

GOWさん

私は、スコットランド、アメリカ、フィリピン、日本と転々とした。フィリピンの子どもたちは、普段から道端で大きな声で歌っている。しかし、日本で同じことをしたら、大人から怒られる。多文化を活かせる一番よい方法は、曲に中に多言語を混ぜること。私たちの幼少期には、子ども対象のこんなワークショップはなかった。ある意味恵まれているといえる。

・おみゆきCHANNELさん

Big Ben

ヒップ・ホップは、それほど詳しくない。中学時代は、ソウルとジャズにはまっていた。その後、Young-Gらと出会う中で、ラップも聞くようになった。

Young-G

学校で、子どもたちが自分たちのルーツを隠さなければいけない状況が問題ではないか。多文化を尊重する考え方を、多くの人に広めることが必要だと思う。日本社会は、ありのままの自分を出すのが難しい。ヒップ・ホップの世界も、土着性を思う存分に出せていない。東京にあわせている部分がある。

 

O.G.Sacredさん

子どもたちは、自分で壁をつくっている。その壁を取り除くと、自分の気持が外に出てくる。子どもたちに大人が生き方の方向性を示し、自信を持たせることが必要だ。

●感想

ヒップ・ホップのアーティストとの協働作業を通じて、少しずつ自分の心の深層に仕舞われている感情を表出し、他者への信頼を呼び戻していく子どもたち。こうしたプロセスは、フィリピンの子どもも、新宿に暮らす外国ルーツの子どもも共通だ。しんじゅくアートプロジェクトのような活動がもっと広がることを期待すると同時に、学校や地域社会が、もっと懐の深い“場”になればいいなと思った。それを実現するのは容易なことではないのだが…(トホホ)。

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