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2013年2月24日 (日)

フォーラム「学校におけるソーシャルワークを考える」に参加して

ESDフォーラムII:地域と教育「学校におけるソーシャルワークを考える」に参加してきた。

●日時:2013年2月24日(日)13時30分より
●会場:品川区環境情報活動センター
●内容:渡辺岳(神奈川県立高校教諭・社会福祉士)ほかによる提案、ワークショップ
●主催:関係性の教育学会、ESD学校教育研究会


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(渡辺岳氏)

●プログラムの内容
【ESDとは(長岡素彦氏)】
フォーラムに遅刻したので、長岡さんの講義は聞けませんでした。

【渡辺さん講演要旨】

●福祉の仕組みと学校での福祉教育実践
・福祉の仕組みは、フォーマル・システム、インフォーマル・サポート、民間事業の3つに区分できる。
・私(渡辺さん)は、学校における生徒への「福祉体験学習」の部分を実践してきた(上記の区分でインフォーマル・サポートにあたる部分)。
・特に、最後の1年は、東北被災地(大槌町)での生徒のボランティア体験をコーディネイトした。学校のクラスで学ぶ以上に生徒には学びがあったと思う。
・ところで、統計数字のように(PPTスライドを見せながら)、過去20年間で児童虐待の件数が指数関数的に増加している。

●児相の問題点1
・二つのケース(高校生)に遭遇したが、その経験の中から、児童相談所(以下「児相」と表記)という制度の限界が見えた。それは、児相の一時保護所は、学校に通いながらは利用できないということ。外出禁止・面会禁止なので、利用しづらい。
・二つのケースとも、児相に相談したものの、結局児相の制度は利用しなかった。学校の格技場に寝泊まりしていた男子のケースは、児相に預けず、結局、ホームレス支援の団体が運営する施設に入居し、最終的には美容学校に通学することになったので、その学校の寮に入居することになった。女子のケースは、母親との関係が悪く、家出していた。一時的に、母子支援施設に入居した後、最後は、父親の両親に引きとってもらうことになった。

●児相の問題点2
・要対協(要保護児童対策地域協議会)が各地域に設置されることになっているが、あまり機能していない。中学の先生に、要対協の存在を聞いても知らない人が多い。

【注記】平成16年の児童福祉法の改正により、虐待を受けた児童などに対する市町村の体制強化を固めるため、関係機関が連携を図り児童虐待等への対応を行う「要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)」を設置するとの方針を厚労省が策定。平成18年4月1日現在、神奈川県内の設置率は100%。

●改善提案
一時保護所の運営を児相が独占するのではなく、NPOに運営費を払って委託するという発想が必要ではないか。例えば、東北の大槌臨学舎(コラボ・スクール)の事例は、参考になる。
http://www.collabo-school.net/?page_id=1202

●不登校の要因1
・不登校が増加している。ここ3・4年で色々な生徒に会った。
・原因の一つは、適応障害、起立性障害、エリトマトーデスなどの精神疾患。こういう子どもが医者にかかるのはよいが、医者は、「学校いかなくていいよ」とアドバイスする。しかし、子どもの将来を考えた場合、やはり、学校に通って卒業した方がよいと思う。医療的な観点も理解できるが、福祉的な視点も必要。
・発達障害やコミュニケーション障害が原因で友人関係のトラブルに至り、不登校になる場合もある。

●不登校の要因2
・人間関係が原因となることもある。生徒対生徒の場合と、生徒対教師の場合がある。学校の先生とうまくいかず、うらみをもっと学校をやめていく生徒がいる。
・もうひとつは、学校のルール、家庭、地域などの環境要因である。例えば、貧困家庭では、修学旅行の費用が払えず、そこがつまずきになって不登校になるケースがある。

●不登校の要因3
・非行の問題がある。好ましくないアルバイトが原因で、非行や犯罪にいたるケースもある。

●校内暴力の問題
・校内暴力も多い。児童虐待、不登校、校内暴力は正の相関関係がある。児童虐待の多い地域は、不登校や校内暴力も多い。
・逆に、そういう地域は自殺者が少ないという統計もある。

上記のような子どもを支援する機関がない。児相にはできない。要対協もあまり機能していないようだ。

●困った時の相談先
・問題が生じた時に子どもたちがどこに相談するのかというと、先生に相談にくるのは非常に少ない。生徒はまず友達に相談する。保護者にも相談しない。生徒たちの関係性が大切。
・退学していった生徒をみると、友達がいない子が多い。友達がいる生徒は、学校をやめない。
・友達同士のサポートが重要で、ノーマライゼーションやコミュニケーション教育をすることが大事。そこで、生徒への福祉教育が必要となってくる。

●どのような福祉教育をするか
・ここでの福祉教育は、社会的弱者保護ということだけでなく、自分ひとり一人が福祉の対象となるという意味で、ユニバーサルな福祉教育が重要となる。日本では、これが決定的に欠けている。
・ICFの自己評価。自己を知り、他者を知ることが重要。ICFの自己評価シートを使って、自己評価と他者理解をすることが効果的である。
★ICFについての詳細は以下のURLで
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html

・福祉教育を充実させれば、最終的には、生徒自身がソーシャルワークできるようになる。インテイクの部分は生徒自身がして、教員は生徒から困難を抱えた生徒の状況を聞くことができるようになる。
・生徒同士で問題解決をしていく可能性もある。

●学校教員とスクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーの関係
学校教員が、生徒の問題を専門職(スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー)に丸投げしてしまう傾向が出てきていることが課題である。

●まとめ
健全な学校をつくるためには、ソーシャルワークを学校の導入することが必要だが、それだけではダメで、福祉教育とセットにすることが必要。この両者がうまく機能することで、学校はエンパワーメントされる。


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(ファシリテーション・グラフィックをする長岡氏)

【参加者との情報交換(主な話題)】
・ESDと福祉教育の最終目的は?
・エンカウンターグループやピアサポート等の手法は、高校の福祉教育の中に普及していたのか?
・キャリア教育と職業教育の違い
・高校へのスクールソーシャルワーカーの配置の状況は?
・高校で実践されているシティズンシップ教育はどのような内容か(選挙制度を教える??)
・学校は、理性(価値観)を教えるべきかいなか?
・自殺をしたいという生徒に対し、自己決定原則だけでいいのか?こうい場合、パターナリズムも必要ではないか?
・今大学生。日本BBS連盟の地方組織(平塚市)に所属し、要保護観察の生徒のお兄さん役をしている。「日本BBS連携」については以下のURLを参照。
http://www2.ocn.ne.jp/~bbsjapan/

■ブログ運営者の感想
・渡辺先生のように、高校生世代の子どもの問題に真剣に向き合ってきた教師からみると、児童相談所のメニューは使い勝手の悪い点があるのだろう。しかし、一方で、児童相談所の職員は、一人で100ケース近くを抱え、手が回らないという実態もある。支援メニューを柔軟にすることは勿論だが、児相職員が置かれた環境の改善も同時に図る必要がある。それとともに、児相以外のNPO的な取組への支援の仕組みを充実させることも忘れてはならない。とにかく、12歳から22歳くらいまでの青少年に対する支援施策(学校の内外ともに)が不十分なのだ。誰かを非難することよりも、ささやかでも、自分のできるところから始めてみたい。

★★渡辺岳さんからの修正コメントが来ましたので、以下に掲載します。お詫びして、訂正します。

① エリテマトーデスや起立性障害、適応障害は精神疾患ではないのです。
このような症状はなかなか治癒しにくい疾患で、長い闘いになります。その間に心を病んでしまうケースがある(多い)と云うことです。

様々な不登校の要因が考えられますが、医療で治癒させるという考え方だけでなく、福祉的対応があってよいと云うのが私の考えです。

不登校の状態から退学を決心するというのは、長い目で見れば自分自身でスティグマを背負い込んでしまうという事でもある訳です。

② 制度的福祉(Formal-system)、制度によらない支援や見守り(Informal-Support)、民間事業、これらの相互作用で効果的に福祉サービスが実行されるべきだと云うのが福祉ミックスの考え方です。

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